中綴じ作品集(写真集・zine)を制作した流れ

この度、photographers’ galleryでの写真展に合わせて作品集(写真集)を作ってみました。写真集と言っても大それたものではなく、zine(ジン)と呼ばれる中綴じ製本のもの。
zineやフォトブックは、オンラインでの印刷注文の進化からここ数年自分でやる手製本なども含め大きなブームになっている。コミケで写真集を販売するというのも結構聞く話。

そこで、私自身本当に知識の無い所から始めて迷った部分や試してみたことをざっくりまとめてみます。あくまでホントに素人なので、話半分くらいの参考になればと。
後段は、今回作成した私の作品集「Orchard」でこだわった部分や参考にした写真集など、まぁハッキリ言えば宣伝ですので、先に直販サイトのリンクを貼らせていただきます(ヨロシケレバカッテネ)。

作品集「Orchard」直販ページ
(内容見本あり・カード決済対応)

なお、手作業製本ではなくWEB上のネット印刷業者への注文のフローが中心で、私自身がフイルムで撮影しているので印画紙から作業する前提の部分もありますのでご了承ください。

どんな写真集(zine)を作るのか

この「どんな」というのが最初にきちんと考えておかなくてはいけないことかなぁ…と。

中綴じのzineでいいのか?折角だからハードカバーにしたいとか、手作り感が欲しいので自分で製本してみたい、もちろん編集や装丁は専門家にお願いして書店に並ぶものをという選択も。

自分でやる製本もちょっとしたブームのようで、私は使用したことは無いのだが右画像のような自作用「卓上製本機(ホットメルト製本・背のり方式)」も安く販売されている。

また、ホチキスで留める中綴じ製本の位置決め用ベース台などもハンドメイドの一助に良さそうだ。こちらの製品はA4はもとより、B4とA3の大サイズにも対応。

印刷についても、印画紙の写真を上回るような高品位にしたいならオフセット印刷に色校正も必要だろうし、逆にチープさを出すためにコンビニのコピーで作ってみるとか。
決まり事など無いのでアイディア次第ではあるが、あまり奇抜なことをやるよりも最初はスタンダードなものを作ってみるのもいいかなと思います。

写真集のサイズも重要な部分。一般的には、印刷の選択肢も広く持ち運びもしやすいA5~A4が主流のようだ。作品集が縦型か横型か、ページ数を何ページくらいにするかも予算と相談しながら一考を。

私はチープな造りという選択肢は無く、簡易製本なだけでしっかりした作品集にしたいと思いWEB注文できる印刷店に発注した。まぁ、写真を見せるのか行為を見せるのかもそれぞれですのでこの辺は適度に(得意のお茶濁し)。

WEB上で注文から入稿まで完結できる印刷屋さんは多くあり、正直何処がいいのかは何とも言えない。友人・知人で同人誌や写真のzineを作ってる人に聞いてみたり、自分で調べるしかないだろう。
私が利用したのは、以下リンクのグラフィック。中綴じ印刷の対応サイズが豊富で(A3縦も可能)、扱っている紙の種類と詳細なデータ、WEB入稿システムの完成度やデータ作成のヘルプなどが充実しているのが好印象。

また、作品集内に印刷データとして入れるかどうかにもよるが、値段設定、販売価格についても薄っすら考えておくといいかと。

一発勝負の印刷の前に

WEB入稿のzine作成では、印刷データを入稿してどんな印刷が上がってくるかは手元に届くまで分らない一発勝負が大半だと思う。事前印刷をしてチェックする色校正に対応している場合もあるかも知れないが当然出費はかさむ。

そこで、一発勝負で出来るだけ失敗しないように、イメージと違ったとならないように私は以下の方法を経て本番のデータ作成に掛かりました。

紙のサンプルを取り寄せる

グラフィックの印刷紙見本

これは必須だと思う。多くのWEB印刷会社では、自社で取り扱っている紙見本を取り寄せできる(右画像・クリックで拡大表示)。

当然冊子以外にも写真展のDM作成にも使えますし、だいたい有料だと思うが1000円程度で非常に参考になるのでぜひ。

しかし、イロイロな紙があることくらいは知ってはいたが、ごく一部だけでもこんなに種類があるのかと驚く。一般的なコート紙などと比べて価格が倍以上する紙もザラだ。
おおよその価格は、実際の注文画面で使用する紙を変更すれば確認出来ると思います。

あまり悩んで答えが出ないなら、いっそ一番安いコート紙やマットコート紙でいいんじゃないかと思ったりも。定番であるし、他の高級紙と比べなければ大きな不満は無いのかも知れません。と言いながら、私はそれじゃイヤ派なのですが…

先行投資でテスト印刷

テスト印刷・二つ折りなど

印刷や紙、印刷用データについて全く知識が無いので、本番の中綴じ冊子を注文する前に仮のデータを作ってチラシを注文してみた(右画像)。つまりテスト印刷。

作品集と同じB4サイズの両面印刷で、紙も実際に使いたいと思うものにしたので最少ロットでも10,000円ほどの出費に。
もうちょっといい方法があるかも知れないが…

ただ、これはやって良かった。
テスト印刷ではトーンカーブの補正とアンシャープマスクのレベルを両面印刷のそれぞれで大きく異なるものにして、適当な値がどの辺にあるのかの把握に大きく役立った。
本番注文時は別の刷版が作られて印刷されるので、完全に同じにはならないが参考には十分。

更に、後述するが私はプリントをスキャンしてデータ作成をするため、スキャン時のホコリを全部取ろうとするとハンパ無い作業量。テストによってどの程度の大きさのホコリが印刷に出るのか・出ないのかをおおよそ判断でき、問題無いレベルは無視できて効率が非常に向上。

また、ペンで文字を書いた場合どうなのかというのもこのテスト用紙で試せる。例えばサインを入れたり、ナンバーやワンポイントのイラストを書いたりとかね。
グラフィックでは文字を書いた場合のにじみや定着のサンプルまでWEBに掲載しているのだが、自分でもやってみるとやはり感覚として判り良い。

ただし。このテスト印刷が迷いを拡大することも十分あり得る。この紙よりこっちの紙の方が良かったんじゃないか、それで印刷したらどの程度違いが出るんだろうなどなど。
やり直しはきかないにしろ、どこかで決断しなくてはいけないワケです。そして決めたらもう迷わないようにしましょう。それしかありません。

紙を触る

この項もテスト印刷によって得られるものだが、実際の写真集サイズの紙を触るというのは大きなメリット。紙サンプルはポストカードサイズなため、A4やB5などの大きさでの質感やコシがどうかということまでは判らないからだ。

私の場合最少ロットで25枚もあったので、半分に折ってB5判の冊子風にして24ページでこのくらいの厚み、32ページだと云々と検討もできた。同じ135kgや180kgといった斤量表記でも、紙によって厚みが全く違うというのも今回初めて知った次第。

なお、以下リンク先リブロアルテから出版されている写真集は、一部に使用している紙の種類や斤量も記載があって興味を引く。老婆心ながら、店舗などで触ることが主目的にならないようご留意ください。

データ作成について

写真集の印刷データの作成には、photoshopかillustrator、indesignなど(主にAdobeの)アプリケーションのどれかが使えることはほぼ必須になる。

私もphotoshopがちょっと使える程度だが、それでも印刷会社のサイトで作成ガイドを見ながら、WEB上に情報を公開して下さっている先達のご教授にあずかりながら何とか作業できた。
何でもそうだが、余裕を見て時間を取っておけば意外とどうにかなる…と思います。

さすがにデータ作成全体のフローを書くほどの知識は無いので、フイルム派の人向けのポイントを幾つか。

参考にしたサイト・ページ

知人友人に印刷に詳しい人がいないのであれば、何はともあれ検索だ。印刷データの補正方法などは以下リンク先を参考にさせていただいた。

また、最終の入稿はpdf化したデータで行ったが、私が利用した印刷会社グラフィックはサイト内のヘルプが充実しているので、以下のリンク先などを参考にすると良いと思う。

プリントスキャン

分割スキャンを乗算で重ねてズレを確認

銀塩モノクロの私がデータを作成する場合、焼き込みや覆い焼き等をした完成形がプリントなので、ネガスキャンではなく印画紙をスキャンしてデータを作成することになる。

A4フラットベッドでは大四切(11×14インチ)の印画紙全体を一度にスキャンできない為(8×10インチだとギリギリ行けるかも)、左右2回スキャンして合成することになる。
右画像が、スキャンした画像を重ね合わせる際の注意点(クリックで拡大表示)。

画像では乗算という方法で合わせ部分の重なり方を確認しているのだが、左側青い線の部分はほぼ合っているが、右に行くにしたがってズレが大きくなっている。

取り込みに光学系レンズを使用するが故と私のスキャナが古いせいもあるかも知れないが、重なり部分全てがピッタリ合わさる訳ではないということ。一見ちょっと回転させると合いそうだが合わないんです。
斜めに取り込んでしまうと非常に面倒なことになるので、ガラス面のフチなどに合わせて曲がりが無いように、合成する2枚は同じ補正でスキャンするのがポイント。

概ね合う位置を見つけてから、先画像の青い線の左側をエッジをぼかした消しゴムツールで消して合成自体は完成。

補正・修正などをあっさり

データ補正は正直、RGBに比べてシャドーをギリギリまで浮かせてトーンカーブでコントラストを出す程度しか判らない。ホントにそれが正なのかも…

CMYKの知見は無いがRGBなら判るので、16進数の色コードに置き換えて、#1d1d1d程度でシャドーが締まって#262626前後はギリギリ調子が出る、白飛びしないのは#fcfcfcくらい等々、お勧めできないけれど自分の判る方法で確認しながら補正を行った。
この辺は紙によっても違うだろうし、経験値しか無いような気も…

ホコリ取りは、プリントやスキャナのガラス上面を幾ら綺麗にしてスキャンしても、スキャナの開口部側のガラス裏面に細かなホコリが付いている事があるようだ。
私見だが、点状のホコリ(と言うかチリ)は印刷上で目立たないので、先のテストプリントなどで確認しながら糸状のホコリを丁寧に修正するという形で大丈夫なような気が。

モノクロでこれなのだから、カラーで思った色を出そうと思うとホント大変だろうな…と。

ということでできました。作品集「Orchard」

斎藤純彦作品集「Orchard(オーチャード)」

はい、ここまでが壮大な前振りのようなものですが、そういった紆余曲折を経てphotographers’ galleryでの展示をベースにした作品集「Orchard(オーチャード)」が完成した次第です。

そもそもなぜ突然写真集を作ろうと思ったかと言えば、精力的に作品集を発行している著名な写真家の方から、作品は紙にして残さないとダメだ(残らない)と言われたことと、「Orchard」という写真自体が今回限りの(続きが無い)ものだったのでまとめてみようと思えた面があります。

写真集は以前から好きでこのブログにも何記事か掲載していますが、zineという中綴じの冊子は否定的ではないものの、背表紙が無いため本棚で紛れやすくあまりきちんと考えたことが無かったのが正直なところ。もちろん何冊かは持っていましたが。

では、また自己解説かよ!ってな感じですが作品集「Orchard」のイロイロについて。

図録か作品集か

「Orchard」は写真展に合わせて作成したものですが、写真展で展示していない写真が2点入っており1枚は表紙画像。そしてもう一枚は、写真展のDM画像を見ながら作品集をめくって行っていただけると判る…かな。DM右のヤツ。

私の前に展示をされていた北島敬三さんが写真展と同時に写真集を刊行されているのだが、今回の写真集の表紙写真は展示に使用していないものだったことが考えるきっかけに。

それが、写真展の図録として出すのか独立した写真集として出すのかということで、別個のものということならセレクトも印刷も展示写真の再現を目指さなくて良いと勝手に解釈。
もちろん真似をしようと思って自分の表紙を決めたのではなく、後記デザインの逡巡で結果的にそのようになったのですが。

参考にした写真集

目指したのは、写真集についての幾つかの戯言でもピックアップした高梨豊氏の「都の貌」(IPC刊)。もちろん凝った装丁などは無理な話ですので、A3見開き横位置の写真を手元で見れるという迫力を。
当初は自分もA3で作ろうと思ってデータを作成していたのですが、購入していただいた時の持ち運びや本棚に収まらない等々さすがにA3はキビシイだろ…と思い直し、サイズを一つ下げてB4にした次第。

そしてもう一冊は金村修さんの「Crash Landing」(mole刊)。中綴じの金村さん初期の写真集ですが、これは本当にカッコイイのでおススメです。
デザインや写真のレイアウトなど、非常に参考にさせていただきました。表紙見返しに薄いグレーを敷いてタイトルを入れるというのは、オマージュという名のそのまま真似させていただいた部分。平謝。

紙の悩み

紙は本当に悩んだ。マット調で一番厚みがあってザクっとした印象の「テイクGA-FS」、柔らかな手触りでインクにグロス感のある嵩高紙「b7トラネクスト」、写真向きでちょっと高い紙の「MTA+-FS」の3種類。以下、グラフィックのそれぞれの詳細ページ。

他にも検討した紙はあったのだが、インクの乾きが遅い紙なのでインク量が多い印刷では色移りが出ると書かれていたりで、問い合わせてもあまりやりたくないニュアンスの回答しか得られず結局回避。この辺の加減が判らないが、失敗だけは避けなくてはならないので何とも。

最終的に、B4という大きなサイズ+ソフトカバーなので、持った時にくたっとしてしまうのは嫌だ。写真の内容としてファインプリント系よりも、若干ザラっとしたと言うかゴツゴツした感触の印刷の方が合うだろうと思い、「テイクGA-FS」の135kgを選択。

デザインと裏表紙のネガ

裏表紙のネガ像解説

表紙の写真を決めるのに、半分になってもカッコイイ写真というのがナカナカ無い。左側がカッコいいモノを「裏焼き」よろしく左右反転させてみたりもしたが決め手に欠ける。

左右幅一杯の上下裁ち落としにしたり逆に黒フチで収めたりと、作っては壊しをやってる時が個人的には一番楽しいかも。

当初からネガをデザインに使うというアイディアはあったが、あまり「私はフイルム派です」みたいな感じが出るのは嫌だなと思いつつも、ネガというのは撮影していて必ず発生する成果物なのだからそれを利用するのはまぁいいだろうと。

正像だと「写真過ぎる」ので反転してネガに、更にちょっと弱くなるように裏表紙からページをまたがせてほぼ原寸大でレイアウト。その元データが右の画像です(クリックで拡大表示)。

これは連続する2本のネガの後半と前半を並べていて、画像の赤丸がphotographers’ galleryで展示したカット、ピンクがKULA PHOTOでロール紙にプリントしたもの。
そして緑が、前後の写真と共通部分の印象が強いため展示にはあえて使わず作品集の表紙にしたカット。何て高打率。いつもこうならいいのですが…。

並び順は展示の時と同じような考え方で。写真サイズの変化は、当初の見開きで大きく見せたい→当然同じページ数なら掲載できる枚数は少なくなる、がしかしたくさん見て欲しいとワガママの狭間で何度も逡巡。
2枚並べて見ると、どんな写真の横に置いても合う写真と逆にどれと組ませてもダメな写真があったりと、展示とは違う面白さや難しさの一端を垣間見ました。

販売拠点とレビュー

さて。斎藤純彦作品集「Orchard」の販売価格は税込みで1800円、通販の場合プラス送料となります。
当サイト直販の他、photographers’ galleryの店頭とWEBショップ、新宿の蒼穹舎店頭と通信販売がご利用いただけます。また、photographers’ galleryと蒼穹舎の実店舗では、お手に取ってご覧いただける見本もあります。

内容サンプルは以下直販ページの他、各リンク先にも。

作品集「Orchard」直販ページ
(内容見本あり・カード決済対応)


お気に召しましたらぜひに。

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