私家版:フィルム現像とプリント作業

暗室の手引き書などは多くあれど、正直何が正解なのか判らないフイルム現像とプリント作業。十人いれば十通りのやり方があるのではないかと思うほど。

そこで、フイルム現像から暗室でのプリント作業の全ての工程を説明するのは無理ですが、色々な意見がある部分やどれくらい○○するものなのか?ということを私がどうしているかや、ちょっとした暗室の工夫、おススメの暗室書籍について書いてみます。

フイルム現像

フイルム現像には何も期待していない…と言うと冷たいけれど、とにかく失敗だけは絶対にせず、標準的な処理方法で普通にかつ安定して仕上がってくれればOK。複数のタンクを利用して、数分ずらして並行で現像処理をするなどという事も事故の元ですのでやりません。

前浴

現像液の注入前にフイルムを濡らす工程。前浴自体が必要か不要かで意見の割れる工程ですが前浴はしています。
ドライウェル(界面活性剤)などを非常に薄くして混ぜる方法もありますが私は真水。使用しているT-MAXデベロッパーに界面活性剤が含まれていると思われる(反復使用していると泡が立つ)のと、ドライウェル自体の扱いが面倒で好きではないので。

フイルムによっては前浴は不要という意見が大勢のようですが、先にフイルムを濡らすことで気泡を出してしまい現像時の気泡ムラを防ぐことと、現像タンクとリールがステンレス製なので多少なりとも液温に近い温度に慣らすという目的で行っています。

停止

停止は一般的な酢酸での処理。酢酸が使えない場合、クエン酸で代替するという方法も。
何故セクションを設けたかというと、水洗完了後のフイルムに茶色い汚れのような付着物が出て暫し悩んだことがあったから。

原因は停止の処理(時間・酸の濃度)が甘く、現像液と定着液が直接反応した汚染でした。プリントの際にも、長時間の作業で停止液が疲労してしまうとプリントの周辺に茶色い汚れのようなものが発生することがあります。
汚染が出やすい・出づらい現像液と定着液の組み合わせというのがありそうですが、万が一汚染が出た場合でもフイルムや印画紙が濡れている状態で慎重に拭えばほぼ問題無く汚れは取れると思います。

予備水洗

本水洗ではなく予備水洗について。定着が完了してから水洗促進剤に浸ける前の水洗工程だが、私はこれを現像タンクの撹拌で行っている。
タンクに水を満たして5回程度の倒立撹拌、水を入れ替えて30秒程度の連続撹拌。

予備水洗は水洗促進剤の劣化を防ぐ目的が強いのだから、ちょろちょろとした水流よりも撹拌で定着液の成分を強制的に洗い流した方が効率が良いかと勝手に思って。
また、水洗促進剤浴・本水洗も現像タンクにリールを入れたまま行っている。

水滴除去・乾燥

浴室に細身の突っ張りポールを渡し、そこにフイルムを吊るしています。ホコリも立たず、換気扇を回しておくと速く乾くので乾燥は浴室がベスト。

ドライウェルは使わず、写真用スポンジ2つでフイルムを挟み込んで水滴を拭います。強い力で挟み過ぎずに拭う速度はゆっくりと、スポンジが汚れてきたら新しいものに交換するということを注意しておけば、傷など特に問題が起きることはありません。

ただ、近年になって東レの良質な写真用スポンジが販売終了となってしまいましたので、どちらの方法が…と迷うならドライウェルで良いかも知れません。

役に立たなさそうな現像処理データ

フイルムは常にブローニーのT-MAX400を実行感度400で撮影。
現像液はT-MAXデベロッパーで希釈は1:5(標準は1:4)。現像タンクがマスコタンクの1202(ブローニー2本用)なので200ml:1000ml。
液温は21.5℃。現像液は反復利用で4回8本現像し、1回目8分、2回目8分30秒、3回目9分、4回目10分。緊急時の5回目をやる時は12分。現像液注入後1分間連続撹拌し、あとは1分間に10秒撹拌・気泡取り5秒といった感じ。

と、開示したところで同じ調子には上がらないんだから面白いですよね。

プリント作業

1枚のプリントを作って行く手順というのは文字にすると膨大な量になるだろうし、プリントするネガによっても異なる。焼き込みや覆い焼き、フィルターの選択等々は感覚的なものが大きく説明はちょっと難しい。ので、その周辺部分に関して。

バライタプリントまでの流れ

フイルム現像後のネガは、以前記載した「フラットベッドスキャナでベタ焼き作成」の方法でデジタルベタを作成し、そこからセレクトを行います。ただし、この段階ではあまり落とし過ぎないように選別。

次に六切(8×10インチ)のRCペーパーで紙にするという作業。プリントのクオリティは無視で、とにかく紙の写真にすることが目的です。モニター上で補正した画像と紙になった写真とではやはり印象が違うので。
RCペーパーは1カットにつき印画紙1枚で焼けるように、ネガの濃度を見て焼き込みもカンで一発処理。ほぼいいプリントにはならないので、もう一枚焼くならどうするかという予測データをメモに残し、バライタを焼く際はその修正データを参考にします。

本プリントは大四切(11×14インチ)のバライタ印画紙。RCからセレクトした1テーマ50枚前後がまとまってから作業に入ります。

露光テストピース

バライタ印画紙のプリントでは、印画紙を短辺に沿って5分割したテストピース1枚を使って露光の確認をします。ネガの一番素抜けのシャドー部分と、一番濃いハイライト部分にまたがるような位置にテストピースを置いて、焼き込みなどもRCのデータを参考に実行。

テストピースが上手くシャドーとハイライトをカバーできない場合は、一部をカットして該当部分に置きます。あまり小さいと確認し辛いのでやや大きめに。ネガを見てこれは難しいな…と思った場合は、コスト削減と失敗減とを天秤に掛けながらテストピースを2枚使う場合も。
ハイライトがギリギリ出ているかどうかの確認は難しいので、テストピースの一部分を必ずイーゼルの羽根やマグネットで押えたりして、ハイライトと比較できる未露光の真っ白な部分を作るようにしています。

今は慣れてしまったのでテストピースは1枚しか使いませんが、昔は同じ位置に秒数を変えて2枚使っていました。テストピースのサイズも印画紙4分割で今より少し大きめ。14秒くらいが適正かな?と思ったら、12秒と16秒などそれぞれ露光が少ない・多い秒数でチェックすると、焼き込みや覆い焼きの参考にもなるのでより良いと思います。

多くプリントしないということでしたら、テストピースのコストより1枚失敗してしまうロスを考えてテストピースはケチらないのが吉。大サイズのプリントの際にも同様だと思います。

露光時間

普段はF11で14~18秒が基本露光。ただこれは、引き伸ばし機やレンズの焦点距離、ネガの濃度や印画紙などによって異なるので他人のデータを気にする必要はないと思う。

話としては露光時間の刻みについて。引き伸ばしタイマーは0.1秒単位の設定が出来るものだけれど、焼き込みなどにも0.X秒露光というのは全く使わないし、更に言えば1秒刻みもあまり使わない。だいたい2秒ごと。2秒4秒6秒とか。

いい加減と言えばいい加減なのだけれど、ある写真家の方から「1秒くらい変えたって見た目変わらないだろ」と言われたことがあり、1秒や0.X秒の焼き込みをして乾燥後に見分けのつかないことも多々あったことから考えを改めた次第。もちろん、1秒刻みが必要な場合は使います。その辺は臨機応変に。

また、1枚のプリントを作る露光時間や各焼き込みの秒数やフィルターの号数などは、作業中は小型のホワイトボードを使って仮にメモしておくと間違い防止に便利です。

印画紙の水洗

RCペーパーの水洗はバットで、定着液に5~6枚溜めてから一気に。印画紙同士がくっつかないようにだけ注意して流水で5分少々。
RCペーパーは薬液の浸透が少ないものの、現像~水洗までの水に浸かってる時間が長過ぎると反りが出てしまうので、定着液や水洗バットに数を溜めて置くというのはあまりやり過ぎない方がいいと思います。

バライタ印画紙の水洗はプリントウォッシャー(パターソン製プリントウォッシャーレビュー)を利用し、大体8~12枚程度をまとめて水洗。処理時間は15分の前水洗をした後、水洗促進剤(QW)に10分、本水洗が15分という流れ。
使用しているイルフォードのFBクラシックは水洗時間の大幅な短縮もうたっているので(イルフォード・オリエンタル等のモノクロ印画紙について)、比較的短めに切り上げている。

水洗完了後の印画紙は、右写真のゴムワイパーでスクイーズして水滴を取り乾燥棚へ。ゴムワイパーは版画用など代替となる物も多くあるようだ。

事前に浴室の一面を綺麗に拭いておいて、水洗が終わった印画紙の乳剤面を壁面に付けて裏面の水滴を取り、ゆっくり印画紙を剥がして壁の水滴をワイパーで取ってから乳剤面を。
RCは両面ワイパーで、バライタ紙は裏面をワイパー、乳剤面側はフイルム現像で古くなった写真用スポンジで処理。ゴムワイパーは強く当て過ぎないことと、長く使用しているとゴムの劣化で色が付いてしまう場合があるので注意。

乾燥とバライタのフラットニングについては、バライタ印画紙の乾燥とフラットニング参照。

印画紙の使用枚数

これは1枚のプリントを作るのにどれくらい印画紙を使うか。これほど個人差が出るものも無いと思うのですが、他の人はどうなのだろう…と少々興味がある部分。
私の場合バライタ印画紙でのプリントは、1カットを焼くのに平均3~3.5枚くらい使うだろうか。そのうちOKレベルの2枚を水洗・乾燥・フラットニングまで終わらせて保管します。

もう少し多く焼いて残してでもいいのでしょうけれど、印画紙も決して安くないことと、バライタプリントは一気に行うので1カットに必要以上に時間を割いても…という思いも少々。
当然、1枚目が定着液に入ってからそのプリントを見ながらの再検討はそれなりに考える時間を取るようにし、フラットニングまで終わった全ての写真が出揃った段階で焼き直しが必要と判断したものは再プリントしています。

なお、「イルフォード・マルチグレードフィルターの交換」の後段にも、フィルターの選定方法などを少々書いてますのでご興味がありましたら。

暗室作業の書籍

暗室作業やゼラチンシルバープリント(銀塩写真)というのは、マルチグレード印画紙の登場以降ほとんど目新しい進歩の無い、枯れて(完成されて)しまった技術とも言えます。
ゆえに、参考書籍を買う場合、古書であってもフイルムの銘柄の減少や現像時間の変更、掲載されている用品類が入手できないものだったりという事はあると思いますが、技法面が古くて使えないという事はほぼ無いと思います。

そこで、私が何度も何度も読んだおススメの暗室本をちょいとご紹介。と言うか、無駄に長い今回の記事はこの本を紹介したくて書き始めたのですが…いつの間にやら。

B&Wプリント・ワークと暗室

B&Wプリント・ワークと暗室

写真家25人のモノクロ作品と実際に使用している暗室の紹介がメインの書籍で、右表紙画像をクリックで目次が拡大表示されます。1996年玄光社刊。

掲載作家は奈良原一高、細江英公、横須賀功光、三好耕三、広川泰士、上田義彦各氏などそうそうたる顔ぶれで、それぞれの暗室レイアウトや作業の工夫、使用している用品から露光メモ等々、圧倒的な量の図版と共に紹介。
若き日の瀬戸正人氏が20mロールプリント作品の作業工程を詳細に公開していたりも。以下の動画でも瀬戸氏の作品と処理方法が少し語られている。
瀬戸正人氏のロール作品:youtube

後半にはプラチナプリントの処理方法から市販の暗室機材紹介、巻末には25人の作家のフイルム現像・プリント等のデータを掲載ともの凄い情報量。
紹介されている方々は専用暗室を作っている場合がほとんどで、お金の掛け方も尋常じゃない感じ。そのまま真似するのは無理にしても、その熱意とアイディアに触れてみるのは非常に刺激になると思います。

20年近く前の本ですが、Amazonの以下リンク先で古書が入手可能。本当に素晴らしい書籍。追記:Amazonでは在庫が少ないと法外な価格で出品されている場合が。他サイトなどで気長に探せば1000~2000円程度だと思います。

姉妹本に「B&Wプリント処理の実際」もあり、こちらは基本的なプリント作業から始まり、サバチエ(印画紙のソラリゼーション)や調色・人着、古典印画の鶏卵紙まで網羅している。ちょっと手を出しづらい技法も多いが読み物としても面白い。

ファインプリントテクニック

写真工業 ファインプリントテクニック

データを重視したお堅い写真書籍で有名だった、写真工業出版の「ファインプリントテクニック」。こちらも右表紙画像をクリックで目次が拡大表示されます。1992年刊行。

こちらは個人の作家重視ではなく、良いプリントを作る為のネガ現像からプリントの処理を、特性曲線やネガの状態からのプリントの差異などなど非常に専門的に解説した内容。最初は印画紙の構造から始まるものの、焼き込みや覆い焼きといった基礎的な技法もきちんと解説されている。

そう多くの暗室書籍を知っているわけではありませんが、ここまでデータと共に詳細な解説をしているものが他にあるだろうかというレベルの濃い書籍。
万人におススメな内容ではありませんが、暗室作業をより深くこだわってやってみたいと思うのでしたらぜひ。

銀塩モノクロ写真についての戯言

しかし、読み返してみると我ながら結構イイカゲンさが漂う…(悪い意味で)。

そもそも私のプリントは、下手ですと謙遜はしませんがとりたてて上手くもありません。上手い人は本当に上手い。プリントもファインプリントと言うには程遠いし。
ただ、自分で言うのも何だけど、展示の際にプリントが上手いと言ってくれる方は多くあった。お世辞も込みと判っていても、上手いと言ってもらって悪い気はしない。反面、このレベルを上手いと言っちゃダメでしょと思ったのも事実。

残念ながらモノクロプリントをやっている人も減っていれば、当然プリントの良し悪しなどを見れる人も減少の一途。
もう一枚焼けば更にいいものが出来るとしても何処で割り切るか、どこを最低限のクオリティとするかはそれぞれの判断。値上げの続く印画紙などのコストも絡む。


最近、インクジェットプリントもフイルムなのかデジタルなのか見分けがつかないレベルになっている。フイルムで撮って高解像度スキャン、高品質のインクジェットでバライタ印画紙にモノクロプリントとなると本当に判らない。判ります?俺、判んなかった。

では何故フイルムで撮って、暗室でプリントしているのかって話です。フイルムだとやっぱり違うんですよ…などとは絶対に言わない。じゃぁ何ででしょうね。ホント何ででしょう。その答えは至極簡単なことなのかも知れません。

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