バライタ印画紙の乾燥とフラットニング

モノクロ印画紙には扱いが簡単な樹脂コーティングされたRCペーパーと、水洗時間や乾燥・フラットニングなどに手間が掛かるファイバーベースのバライタ紙とがある。

バライタ印画紙の方が階調が豊かで黒の濃度も深く良好な結果が得られるものの、価格も高く水に濡れている際に折れ皺が付きやすいなど取り扱いにも注意が必要。
ベースが厚手の紙そのものなので乾燥後に波打ちが強いなど、プリントしてみたいと思ってもちょっと躊躇する代物でもある。

そこで、私同様自宅暗室作業をしている方を念頭に、バライタ印画紙の乾燥方法とフラットニングの自分なりの方法と準備・用品などをまとめてみました。

バライタ印画紙の乾燥方法

私の印画紙乾燥方法のキモは、乳剤面を下にして乾かすということ。

検索してみると乳剤面を上にしている方の方が多い印象なのですが、水を吸って膨らんだ乳剤が乾燥して収縮するのですから、乳剤面を上にした場合内側へのカーリングが強く出る。
カールや波打ちが強いと、フラットニングの際に印画紙を折り込んでしまったり周辺ひび割れなどの原因にもなりやすいように思います。

乳剤面を直接ネットに触れさせて大丈夫?と思うかもしれませんが、全く問題ありませんし跡が付くこともありません。無論、スケッチブック等「面」のものに濡れた乳剤面を下にして置くとくっついてしまいますのでそれは厳禁。
ただ、印画紙を一度置いてから引っ張って動かすというのは乳剤面の傷の元ですので、持ち上げてから動かすようにしてください。

乾燥棚を作る

バライタ印画紙の乾燥棚

乳剤面を下にしてバライタ印画紙を乾燥する為に、なるべくお金を掛けずに+邪魔にならない乾燥棚を作ってみましょう。
流用できそうな版画用の乾燥棚などが市販されていますが、かなり高価で広いスペースが必要です。

乾燥棚を作るには、まずホコリの立たない(立ち辛い)デッドスペースを探します。玄関先や脱衣所、洗面所の上のスペースが空いていませんか?そのスペースに突っ張りポールを渡して、園芸用や防虫ネット、網戸の網で棚を作るという方法です。

右画像が以前私が使っていた乾燥棚(クリックで拡大表示)で、大四つ切(11×14インチ)の印画紙が20枚乾燥できるもの。
画像では印画紙のアタマ部分が外に出ていますが、そこが乳剤面側にカールしてしまうので印画紙全体が収まるサイズで作るのが吉。画像は撮影用に油断して印画紙を並べたので頭が出てしまいました…


バライタ印画紙の乾燥棚の図

網というのはカットしようと思っても意外と自由にならなかったり繊維くずが出てしまったりするので、右図のようにネットを切らずに段数分を繋がった状態で作成し、最初と最後を(必要なら中間部分も)目玉クリップで固定しています。

網戸用の網はやや硬かったりクセが強かったりするので、工作が苦手な方は防虫ネットなどの方が作業がしやすいかも知れません。

網の幅は足りないよりは広いものを。余った部分は無理に切らずに折り返してしまっても大丈夫。
コツは、網をパンパンに張ろうとしないこと。細身の突っ張りポールはバネの力が弱いので、ネットをピンとしようと引っ張りすぎるとポールが外れてしまう事があります。

棚と棚の間隔は狭い方が段数を多く設置できますが、濡れたバライタ印画紙をそっと置くわけですから作業しやすい十分な間隔を取ることをお勧めします。

乾燥棚の注意点

棚の設置場所は、キッチンのガス台近くは油煙などでネットが汚れてしまうのでバツ。玄関のドア付近は隙間から意外と砂埃が入ってきますが、高い位置なら問題無いと思います。

賃貸住宅は釘や金具を打てない場合が多いでしょうから、空いているスペースに突っ張りポールが設置できるかがカギとなります。ポールやネットはホームセンターや通販で各種サイズが入手できます。

棚を使用しない時には、ホコリが積もるのを防ぐためにクッキングシートやビニール、いらない印画紙などを乗せて置くのも良いと思います。
また、実際に使用する際は、濡れた印画紙を持って両手がふさがった状態で踏み台に上ることになりますので、どうかどうか十分注意しながら作業してください。

バライタ印画紙のフラットニング

フラットニングやドライマウントを初めて自分でやる場合、そんなに難しい事でもないのですがちょっとしたコツや手順などがありますので、いきなり本番プリントに挑戦するのではなく失敗プリントを何枚か水洗まで完了して用意して置くと良いと思います。

プレス機の導入を検討しているのであれば、大きな印画紙に対応している方が便利なのは当然ですが、機械の大きさ重さに価格も相当なもの。大は小を兼ねるではなく、小で大を兼ねるというのも良い方法だと思います。

大サイズ印画紙の分割プレスは、100℃設定15秒のプレスで十分フラットになるし低温用ドライマウントティッシュなら溶けてくっ付くので、無駄に長い時間を掛ける必要は無いと思う。
圧が強過ぎたり長時間プレスすると分割部分に跡が残ってしまう事があり、その部分を再プレスしても跡が消えない。つまりプリントがダメに。
印画紙を挟むボードが厚ければ分割跡は付き辛いが、当然プリントへの熱伝導は悪くなるので、自分の使用環境でどの程度がベストか何度かテストをしてみる必要があります。

私は細かな技術レクチャーを出来るほどではないので、フラットニングやドライマウント処理の方法は日本語でも情報がありますので検索してみてください。

シール社(Seal Bienfang)製ドライマウントプレス機

フラットニングやドライマウントの定番ブランド、シール社のドライマウントプレス機はいくつかのモデルがあり、主要なサイズは以下の通り。

  • 110系…12×15インチ対応。110、110Sなど。プレス圧調整機構は無く、プレートの増減などで調整。
  • 160系…15.5×18.5インチ対応。jumbo 160、jumbo 160Mなど。幅より奥行きが長い構造。
  • 210系…18.5×23インチ対応。210M、210M-Xなど。ラボなどではこの機種が多い。

海外市場でのブランド名が、身売りか何かで?「Seal Bienfang」「D&K」表記等色々混在している場合があるようです。
現行で210系より大きなサイズもあるが、日本の市場で見かけることは極めて稀。かなり前の機種では8×10対応のものもあったようだが、あえて探す必要は無いでしょう。

シール ドライマウントプレス110S

私が所有している110Sで、大全紙(20×24インチ)をフラットニングする場合4回の作業が必要。ひとサイズ大きい160系でも大全紙なら同じく4回のプレスという事に気付いて、それなら安くて小さいのでいいかと110Sを購入した次第。

なお、110系のみプレス圧の調整機構が無いので、中古で購入する際はスポンジのへたりやプレッシャープレート(間に挟む調整用の板)が付属するかは要確認。
現在でも、海外のB&H等で各種サイズのスポンジや熱板ヒーターなどパーツ単体も購入可能だ。

通常、コンセントプラグが日本の形状と異なるのでアダプターが必要で、電圧も115Vだが設定温度より実温度がやや低くなる程度で実用上問題は無いようだ。

中国製ドライマウントプレス機

ここ数年来?中国製の「フォトマスター」という名称のドライマウントプレス機がCreators Storeで輸入販売されている。シルクスクリーン用のヒートプレス機を改良したもののようで、主にアメリカ資本の会社が中国で製造という事らしい。
写真用とされるラインナップは以下の3種類。

注意しなくてはいけないのが消費電力(W数)が1750~1800Wと非常に大きいこと。参考までに、前出のシール110Sが800W。一般家庭ではブレーカーが落ちる可能性があるので、使用する環境で対応可能なW数か必ず確認を。
重量もかなり重めで、16×20インチ用が印画紙サイズギリギリだったりするので記載をしっかり確認して検討した方が良いと思います。ギリギリ過ぎるプレートサイズでは印画紙との位置をきっちり合わせるのが大変ですので。

なお、他にドライマウントプレス機と同じように見えるヒートプレス機が若干安く売られているが、その辺の差ももう一つ不明。
ブログ等でのレビューも見つからなかったので、こういったものがあるという情報程度に。
アメリカAmazonではベースが同じと思われる各種サイズ(リンク先は15×15インチ)の熱転写機が売られており、評判はそこそこ良いようですが。

ズボンプレッサーという選択

現在は小型のドライマウントプレス機を導入しましたが、これはフラットニングではなく展示用のドライマウントをするために購入したもの。それまで私はズボンプレッサーでバライタ印画紙のフラットニングをしていました。

ズボンプレッサーは縦型が主流なので、平置きで使えるのは東芝製のズボンプレッサーHIP-L35(S)(後継機:HIP-L36-S)くらい。価格も8000円弱と安く、私もしばらくこの機種を愛用していました。

東芝のHIP-L35は大四つ切を横に2枚余裕を持って並べることが出来ますが、上側のスポンジがU字型に切り欠きがあるので、上側に厚手のミュージアムボードを挟んでフラットニングするといいと思います。
専用のドライマウントプレス機と比べてしまうと仕上がりの平滑さにはかなり差がありますが、これでプレスしてからスケッチブックに挟んで2~3日という方法で実用には十二分。

また、片側のロックパーツを取り外して大きなサイズの分割プレスをしている方も。
ドライマウントには対応できませんが、簡単にフラットニングをということであれば非常におススメです。使わない時は立てて置くことでさほど邪魔にもなりません。

ドライマウントプレスのレンタル

購入することはできないけれど、どうしてもドライマウントプレス機でということならレンタルという方法も。レンタルと言っても大きく重いプレス機ですので、自宅に借りるのではなく貸してくれる場所に行くという事になります。

以下のリンクは、有料でプレス機だけを利用させてくれることが明記されている所。通常は、担当の方が一通り操作方法を教えてくれると思います。

レンタル暗室を利用した場合のみ借りられるケースや、レンタルの記載は無くても問い合わせれば利用させてくれる所もあるかも知れませんので、近くに貸し暗室がある場合は確認してみるのも良いと思います。
写真学校を出ている方は、母校にプレス機を貸してくれないか問い合わせてみるのもアリ。

バライタ印画紙の戯言

実を言うと、私もモノクロプリントを始めて結構長い間RCペーパーでばかりプリントしていました。一番最初のニコンサロンの応募もRCだったなぁ…。
バライタ印画紙は何度か焼いたことはあったものの、数が多い場合の処理をどうしたら良いのか、どうすることがベストか判らないと尻込みしてた。その最たる原因が今回記事にした乾燥とフラットニング。

確かにRCペーパーよりは少し手間が掛かるけど、何も難しい事じゃありません。各位、これを読んだが運の尽き。さぁ、レッツ・バライタプリント!←何このオチ

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