モノクロRCペーパーの比較検討
写真家の方が作品を作るのは概ねファイバーベースのバライタ印画紙ですが、テストプリントにRCペーパー使用したり、あえてRCで展示を行う写真家の方もいらっしゃる。
ややもするとバライタ紙より下に見られがちなRCペーパーですが、水洗や乾燥などの処理が簡単で安価という大きなメリットがあり、何より銀塩モノクロプリントの入り口という重要な任務も兼ねています。
そこで、現在でも入手しやすい多階調(マルチグレード)のRCペーパーまとめと実際にプリントした比較画像等を作成しましたので、印画紙選びの参考にしていただければ幸いです。
主要RCペーパー比較表
大手量販店で入手可能なRCペーパーのサイズや特徴の一覧表を作成してみました。ピックアップした印画紙は5種類で、名称と表内の略称は以下の通り。
- SEAG…オリエンタル・ニューシーガルVC-RPIII
- FUJI…フジフイルム・フジブロ バリグレード WP
- EAGL…オリエンタル・イーグルVCRP
- ILFO…イルフォード・マルチグレードIV RC DELUXE
- KENT…ケントメア・VCセレクト
これら以外にも、チェコ製のフォマ(foma)やアグファの流れを汲むアドックス(ADOX)なども国内で入手しやすい印画紙。なお、ピックアップのうちケントメアのみ使用したことがありませんので、個別の評価や印象等の記述はありません。ご了承ください。
表の前半は印画紙サイズのラインナップで、適合部分の数字はパッケージの入り枚数。後半部分の項目は、表の後に説明と考慮すべき点などを交え個別に記載します。
SEAG | FUJI | EAGL | ILFO | KENT | |
---|---|---|---|---|---|
5×7 大キャビネ |
100 | 50 | 50 | 100 | 100 |
8×10 六切 |
100 | 20 | 20・100 | 25・100 | 25・100 |
9.5×12 小四切 |
– | – | – | 50 | 50 |
10×12 四切 |
– | 20 | 20 | – | – |
11×14 大四切 |
50 | 20 | 20 | 50 | 50 |
14×17 半切 |
– | 20 | 20 | – | – |
16×20 小全紙 |
– | – | – | 10 | 10 |
18×22 全紙 |
– | 20 | 20 | – | – |
20×24 大全紙 |
10 | – | – | 10 | 10 |
ロール | ○ | ○ | – | ○ | – |
SEAG | FUJI | EAGL | ILFO | KENT | |
光沢 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
半光沢 | – | ○ | ○ | ○ | ○ |
ISO P | 125- 500 |
125- 500 |
160- 640 |
100- 500 |
160- 640 |
ISO R | 40- 180 |
65- 155 |
50- 150 |
40- 180 |
60- 150 |
バライタ | ○ | – | ○ | ○※ | – |
8×10 円/枚 |
131.2 | 142.0 | 124.2 | 170.6 | 133.9 |
SEAG | FUJI | EAGL | ILFO | KENT |
(2016年4月3日現在)
サイズと入り枚数
印画紙を試してみたいと思っても、使いたいサイズに1万円を優に超えるようなパッケージしか設定が無い場合はナカナカ手を出しづらい。逆に、入り枚数が多いパッケージほど1枚当たりの単価は安くなるので、数をプリントする人にはありがたい設定。
100枚も使い切れない方や、あと10枚だけ欲しい…といったケースもままあるので、小容量パックの販売があれば若干割高であってもトータルでの使い勝手はいいと思います。
一番の売れ筋と思われる8×10インチ(六切)では、オリエンタルのニューシーガルは100枚入りしか無くフジは少なめの20枚入りのみとなっています。
四切や半切・全紙といったサイズは「日本サイズ」ですので、現在では世界的なラインナップの縮小で選択肢は国産のフジとイーグルのみ。
あまり毎回バラバラなサイズでプリントすると保管や管理が面倒になりますので、扱いやすい8×10インチ(六切)か、手元で見られる大サイズとして人気のある11×14インチ(大四切)などで統一しておくと便利。
それ以上の大きさは基本的に展示(写真展)などの用途と考えてよいかと思います。
光沢・半光沢
印画紙は基本的に光沢のあるツルツルの表面ですが、光沢を抑えたものも販売されており、ニューシーガル以外はすべて半光沢や微光沢といった仕上げが用意されています。
右画像はニューシーガルの光沢とイーグル半光沢の比較画像で、表面の反射が大きく違います(クリックで拡大表示)。大手量販店の印画紙売り場にはサンプルが展示されていたりしますので参考にしてみると良いかと思います。
RCペーパーの光沢はやや安っぽく見えてしまう場合もあるので、落ち着いた印象の半光沢を好む方も多いようです。黒の黒さ(深さ)は光沢に若干の利があると言われますが、大きく印象が違う訳ではありません。
半光沢でもフジの表面は滑面、イーグルとイルフォード(44M・半光沢微粒面)は僅かに凹凸が感じられるような仕上げ。この辺も本当に僅かな差異ですので、それを決め手にするほどではないかと思います。
なお、バライタ印画紙は光沢紙であっても、自然乾燥で落ち着いた表面の反射になりますので特別な意図が無ければ光沢を選ぶのが一般的。
ISO P・ISO R
ちょっと専門的な項目になりますが、ISO PはISOスピードという感度についての数値。フイルムのISO感度と同じものと思ってください。一般的にですが、小さな数字がマルチグレードのフィルター使用時の00~3・1/2程度の通常域での感度、大きな数値の500や640というのがフィルターなしで露光する場合の数値です。通常、P125-500のように「P」を付けて表示。
ISOスピードの数値が大きい方が、同じ絞り値でも露光秒数が短くて済みます。
ISO RはISOレンジで有効濃度範囲とでも言うべきもの。数値が大きいと軟調傾向、小さい場合は硬調となります。こちらはR40-180のように「R」を付けて表記。
2つの数値の大きい方が00号などの軟調フィルターを使用した場合、小さい数字が5号など硬調なフィルターを使用した場合の数値。フィルターごとに数値が変わります。掲載の表から見ると、ニューシーガルとイルフォードが一番領域が広いのが読み取れる。
ただ、このISOレンジというのは特性曲線というグラフと計算式から出るもので、私もこの辺は詳しいと言うには程遠いので、必要と感じたら「印画紙 特性曲線」等で検索するか詳しい書籍などで学んでみて下さい。概要はだいたい合っていると思いますが…。無論これらを知らなくてもプリントはできます。
なお、この数値は国内・海外製を問わず印画紙の箱に記載されているのが通常で、ざっくりですがその印画紙の特徴を判断できます。
バライタ
この項目は、同一銘柄でバライタ印画紙が用意されているかどうか。フジとケントメアはRCのみの販売で、共に以前はバライタ印画紙もあったのですが残念ながら現在では生産中止に。
同じISOスピードとISOレンジのバライタ印画紙があれば、普段は扱いやすく安価なRCペーパーでプリントをして、RCプリントの露光データを流用してコレという写真だけバライタでプリントという方法もやりやすいと思います。
もちろん、ベースの紙や階調の差異はあるので、若干のデータ微調整は必要となります。
ニューシーガルとイーグルは、RCもバライタもISO感度・ISOレンジ共に同じ仕様。
イルフォードはバライタ印画紙が大幅にモデルチェンジしてしまい、感度・レンジ共にRCペーパーとは異なっているので注意が必要です。データは参考程度に、別の印画紙で焼くという意識の方がいいでしょう。
8×10 円/枚
暗室作業で無視できないコストについて。数字は、8×10インチの印画紙で1枚当たりの単価がいくらかというもの。大手量販店のヨドバシカメラの販売価格で計算し、複数のパッケージがある場合はコストが低い大容量パックの方で計算しています。
イルフォードとオリエンタルの相次ぐ値上げの中、2016年4月に一番安価だったフジの印画紙も値上げとなり、イルフォード以外はさほど単価の差が無い状況に。高ければ良い印画紙と言い切れるものでもありませんが、この項目はそれぞれのご判断で。
なお、プリント時に「1枚失敗で○○円かぁ…」などと決して思わないようにしましょう。
その他
メーカーで数値を公表していたりしていなかったりなのですが、印画紙の厚みはニューシーガルとイルフォードは腰のある感じ、フジとイーグルはやや薄い印象でフジが一番薄いかなと。あくまで印象ですが。バライタ印画紙では厚みのある方が高級感がある等と言われますが、あまり意識しなくてもいいかと思います。
それから、マルチグレード印画紙の落とし穴?として、先のISOレンジなどは使用するフィルターによってそれなりの差異が発生するようです。かと言って、印画紙ごとに純正フィルターを購入するのも厳しいので、今持っているもので慣れて行くのが現実的かと。また、フィルターの経年劣化や退色などにも注意が必要です。
少々情報が古いですが、各メーカーのマルチグレードフィルターについては、以下リンク先のモノクロラボ・ヒットオンの暗室レポートでも検証されていますので参考に。
モノクロラボ・ヒットオン 暗室レポート 各社フィルターの互換性について
プリントの比較
各々の印画紙で実際にプリントしたものを、同一条件でスキャンし比較してみました。引き伸ばし機は一般的な集散光式で、使用しているマルチグレードフィルターはイルフォード製の2号。掲載画像は全てクリックで拡大表示されます。
オリエンタル ニューシーガル・イーグルとフジ バリグレード
下に掲載した画像は、左からニューシーガル、フジ、イーグルの順。
中央のフジと右のイーグルを比較してみると、イーグルの方が奥の建物が明るく左の木の陰部分も黒い部分が多く調子が潰れてしまって、やや硬調な印象です。
次に、違いが判り辛かったニューシーガルとフジの2つに絞って拡大してみます。
ISOスピード(感度)は同じで同一の露光をしていますが、フジの方が僅かに濃度が高いように見えます。それ以外の差異と言うと…実際のプリントを見比べても本当に微細なレベルという印象。ISOレンジの数値上はかなり差があるのですが。
実際に複数のプリントをしてみて、中間調からシャドーに掛けてフジの方が濃く出るように思いましたが厳密な比較ではありません。
最後はイルフォード・オリエンタル等のモノクロ印画紙についてに掲載したオリエンタル・イーグルとイルフォードMG IVの比較の再掲。これは手前のアスファルトの描写や右の家のコントラストなど特徴が判りやすい。
被写体によってや、先に記載した使用しているフィルターの影響で、印画紙の傾向が大きく出たり差異が判り辛かったりということもあると思われます。
印画紙の違いが判らなくても
何やらエラソーに書いてますが、私もイルフォードとニューシーガルとフジのプリントを単独で出されて当ててみろと言われたら判らないと思います。イーグルは判る…かな?
RCでもバライタでも印画紙はそれぞれ特徴がありますが、プリントを作る際に重要なのは「慣れから来る勘」だと思います。しっかりしたテストだ!と怒られるかも知れませんが^^;
何度も違う印画紙を購入して逡巡するよりも、早めに自分の銘柄を決めてそれに慣れて行くようにすれば思うようなプリントに近づくのではないかと思います。
RCペーパー選びの私的なまとめ
個人的な印象ですが、最も品質が安定していて使いやすいのはイルフォードです。印画紙のサイズや半光沢・微光沢にクールトーン・ウォームトーンとRCでも選択肢が非常に広く、高級タイプも別に用意されています。
ただ、イルフォードは最も価格が高く、その一点でおススメとは言い難い。海外ではイルフォードも安価に販売されていますので、個人輸入するという方法も。海外からの購入については、イルフォード・オリエンタル等のモノクロ印画紙についてに詳細を記載しています。
実は、ピックアップした印画紙のオリエンタル2種はサイバーグラフィックス社が製造・販売しているもので、イルフォードとケントメアも同社が国内代理店として輸入販売しているブランド。1つが値上げになると、その他も上がるのは致し方ない…と言うか、そうなるよなぁ…的なゴニョゴニョだったり。
取り上げた中では唯一独立勢力的なフジフイルム。
フジの印画紙は、いまだにマルチグレードではない号数紙も販売されており、光沢・半光沢もパッケージのぱっと見では判りづらいので購入の際にはちょっと注意を。フジではバリグレードという呼称がマルチグレード・多階調印画紙の意です。
しかし、一度生産完了になったものの復活は無理でしょうけど、フジは8×10の100枚入りを再版して欲しいなぁ…
以下使いやすいサイズの六つ切(8×10インチ)RCペーパー、左からフジの光沢、同半光沢、オリエンタル・ニューシーガル。