暗室作業でのプリントデータの残し方
暗室でプリントをしている人は、焼いた写真のデータを何がしかの形で残していると思う。
厳密に言えば、露光データを残したところで現像液の微妙な劣化や液温、焼き込み・覆い焼きの手加減具合で完全な再現というのは難しいものではあるが、それでももう一度焼く、サイズを変えてプリントするといった場合にデータがあると無いとでは雲泥の差。
しかし、このプリントデータというものは多分それぞれの方が自己流でやっていて、表に出ることはナカナカ無いシロモノ。
そこで今回はそのメモ書きに注目し、プリントデータの残し方をWEB上などから拾い集めて、自身で判りやすいノート作りのヒントになるような記事に出来ればと探ってみます。
データ記載の実際
プリントデータの残し方は、大きく分けて3タイプくらいだろうか。
1つは、実際のテストプリントに直接焼き込み範囲などを書き込む方法。2つ目は、文字で残す方法。極論自分が判ればいいのだから書式は自由だ。そして3つ目は自分専用の定型フォーマットを作って記入するもの。
もちろんアイディア次第で、それぞれのいいとこ取りの折衷案なども当然アリ。基本的に紙ベースの話を書くが、暗室で使うものなのでデジタルデータとして残すより、紙の物質にしておいた方が使い勝手はよいと思うのだが…どうだろう。
ではそれぞれ参考リンクなどを交えながら。
プリントに直接記入する
本番プリントをする前に、一般的にはワークプリントと呼ばれる下焼き(試し焼き)をしてデータを作る方が多いと思うが、そのワークプリントに直接本番プリントのデータを記入するという方法がある。
以下英語サイトではあるが、有名なジェームズ・ディーンやオードリー・ヘプバーンの写真、写真家のアンリ・カルティエ=ブレッソンのプリントデータを、直接印画紙に書き込んだものが掲載されている。2つ目のリンクは、著名な写真家であるリチャード・アヴェドンのものも。
ざっくりの焼き込みや覆い焼きはともかく、細部のフィルターや秒数についてはルールが判らないと読み解くのは困難。もちろんプリントデータというものは自分だけ分かれば十分なのだから、自分が直感的に判りやすい書き方でいいのではないかと思う。
しかしモノとしての存在感は非常にカッコイイ。それが目的ではないので何ですが…
現代ではワークプリントに書くよりも、もしくは下焼きを作っていない場合でも、スキャンしたネガをプリントアウトして書く方が簡便な気もする。メモする事自体が必要なことなので、写真の解像度は低くても構わないであろうし。以下、流用できそうな手前味噌の参考記事。
なお、ワークプリントや出力にデータを書く場合、黒のペンだとシャドーに溶けて見辛かったりしそうだ。濃度薄目に出力するか、シャドー上・ハイライト上どちらでも見やすい銀色のペンなどで書くと見やすいかも知れない。写真学生時代、ベタ焼きの番記は銀色のマジックで行っていた経験から。
「シルバー 油性ペン」で検索すれば多々あるが、なるべく細字のものを選んだほうが良さ気。
プリントに直接記入する方法は、焼き込みなどの工程が多いほどデータが見辛くなるのがネック。プリントそのものに書く場合は、予備があればいいが書き間違いにも神経を使いそうだ。
ノートやメモ帳に文字で記入する
私はA5のルーズリーフに文字で書く派。焼き込みというのは、それぞれに癖みたいなものがあるので(たぶん)、それを把握してしまえば書式もおのずと定型になってくるような気が。
例えば焼き込みで私がよく使うのは、上下何分の一、斜めに、角からなどなど。穴開き紙での焼き込みはsp(スポット)と記載し、必要なら「○○に沿って」等の注釈も入れる。
ニュアンスとしての強や弱を付記したり、自分で判る自由度で以下の様な書き方(号数は適当)。この呪文を印画紙にあてはめて、焼き込みを視覚化したものが右の画像。
- A…下1/5 2号 +4s
- B…左上基準ナナメ1/2弱 2号 +6s
- C…右1/4(下広く) 3・1/2号 +4s
- D…右下角~(広く) 5号 +4s
実際のノートも載せようかと思いましたがやめておきます…。この記事の看板画像で薄っすら見えますが、ネガ番号の記載の後に絞り値・フィルター・ベースの露光秒数という書き出しから、先のリストのような焼き込みを連ねて行く方式です。
印画紙の銘柄やサイズ、使用する引き伸ばしレンズなどは、そのテーマのプリント群では共通なので最初のページに記載すれば十分。テーマ・サイズ(マスターの大四つ切・展示用大サイズ等)によってルーズリーフのインデックスでノートを分けている。
覆い焼きがある場合は、ベース露光の下にまとめて記載するなど、自分のルールが出来てしまえば特に迷うことはありません。自分が判ればいいのですから。
テキストだけで記録する問題点としては、複雑な形状の焼き込み・覆い焼きの場合ニュアンスが判りづらいことと、どの写真なのかネガ番号の文字情報だけでは判らない点。
前者は文章的に注釈を記載したり、後述の複合タイプでカバーするなどが良いと思いますが、自分の手クセというのは意外と決まっているので、一度焼いているとあぁこんな感じだったかな?と思いだせるような気も。
後者は、ブローニーなら多くても枝番号が16までだが、35mmのネガでは167-29など直感的に判別できない数字になることもあるだろうから焼き間違いの元にもなりそうだ。
以前記事にしたスキャンベタのカットを小サイズで出力して、該当データの横にテープで止めるなどしておくと良いと思う。後段に紹介するルイス・ボルツのノートがまさにそれ。
フォーマットを作成して記入する
先にも書いたが、プリントをしていると自分の手クセというのはだいたい決まって来るもの(だと思う)。焼き込みは多くても○回で収まるなど。決って来るならば、それに合わせたフォーマットをwordなりで作って印刷しておくという方法がある。
以下が、日本でも人気の高いマイケル・ケンナ(Michael Kenna)のアシスタントも務めた、ロルフ・ホーン(Rolfe Horn)のプリントテクニックページ。
上段3つのサムネイル画像から、印画紙やレンズ、ベース露光のフォーマットに加え、焼き込みの詳細を記入する四角を10個並べたデータ表を見る事が出来る。これは感覚的に判りやすい。
ストレートプリントとプリント操作後の比較画像もあって、いやはやファインプリントの人はこんなに違うのか…と小並な感想を持った次第。
更に以下はRolfe Hornのデータシートをほぼ流用してらっしゃる?方のものだが、縦位置・横位置がある場合はそれに合わせる必要があるという気付きごととして。
また、焼き込み・覆い焼きをあまりしないカラープリント用に(※私、カラーのことよく知りません…)、CMY等のデータを記入できる自作データシートを公開してらっしゃる方もあったので以下に。
プリントデータのよしなしごと
先に挙げた「文字で書く」と「フォーマットに書く」の複合型、ルイス・ボルツのプリントノートが以下。定型フォーマットと自由書式の部分にベタ焼きと、これが個人的に理想形のような。さすがボルツ先生(本人のメモかは不明)。
こちらのリンク先中段には、画像は小さめだが同じフォーマットでベタ焼きに直接記入しているものも確認出来る。
なお、作業中はホワイトボードにメモするなどして確定データをその場で書くことが必要。私はデータ暗記型(時々間違うので非推奨)で、後からだと判らなくなってしまうため、印画紙が定着液に入って電灯下の確認でOKと判断したらメモ書きに移るようにしています。
ただ、少しの焼き込み違いで2枚・3枚とプリントを残した場合、暗室内でこっちと思ってメモしたものと最終的にセレクトしたプリントに差異が出たりもする。
もちろん僅かな違いなので、次回のプリントがあるならその場その場で考えればいいし、極論を言ってしまうともう一度同じサイズの同じプリントをするケースというのは実はほとんど無かったりも…今更それを言っては元も子もないが。
しかし、写真展の開催で大きなサイズのプリントを作る際には、この暗室メモが多いに役立つ。焼きのデータとそれで上がった実際のプリントとを見比べながら、どうすればより良くなるかを検討してから焼けるからだ。
自分で言うのも何ですが、多分私は大四つのプリントよりも展示用の大全紙のプリントの方がちょっと上手く焼けてるような気はします。
といった感じで、暗室をされている皆さんはどんな方法でメモしているの?と覗いてみたい気持ちを持ちながら書いてみた次第です。