写真集についての幾つかの戯言
このブログは特に深い考えもなく「写真好き兼カメラ好き」と題されている。写真とカメラというのは一体のようであるが、実際は「写真が好き」と「カメラが好き」というのは全く別の趣向。最近はそこに「写真集好き」が介入して来て、私的には非常にややこしい。
いまだ写真集については素人然としていますが、面白くなってきた断片を思い付きのままに書き散らかす感じで、写真集てステキやん…的な記事にしてみたいと思います。
写真集棚の定点観測2015
先日、混沌としている写真集棚の整理整頓を思い立ち、ついでに気に入っている写真集を手の届きやすい1ブロックに集めてみようと思い付く。そこに入るだけという制約が入ると選択は非常に悩ましい。
何とか無理やり収めたところで、この部分を定点観測してみようと記録してみた次第(クリックで拡大表示)。
もちろん、気に入っているの物差しは写真の中身が優先だけど、個別に比較なんて出来ないので意外とあいまい。次回の定点観測があるのかどうかはさて置き、この棚の変化に私自身興味があるのでその記録として。
ブログの一番下に「おススメ写真集」として掲載しているものも多いですが、左から順に以下のリスト(順不同)。
- Jem Southam「Landscape Stories」
- Lewis Baltz「Park City」
- Stephen Shore「Uncommon Places」
- Wout Berger「Like Birds」
- Wout Berger「Giflandschap / Poisoned Landscape」
- 金村修「I CAN TELL」
- 金村修「SPIDER’S STRATEGY」
- 小林のりお「ランドスケープ」
- 北島敬三「ISOLATED PLACES」
- Steven B. Smith「The Weather And a Place to Live」
- 吉江淳「地方都市」
- 染谷學「道の記」
- 高梨豊「地名論」
- 写真誌 視覚の現在 No.1
- 川田喜久治「The Last Cosmology」
- Lee Friedlander「Sticks And Stones」
写っていないけれど追加で以下3冊。いずれも大判の写真集で高さがこの棚に収まらない。
- 高梨豊「都の貌」
- Josef Koudelka「Chaos」
- Joel Sternfeld「American Prospects」
既に1ブロックに集めるという前提が崩れているが…まぁ気にしない。これらのうち何冊かピックアップして写真以外の話を少々。
Lewis Baltz(ルイス・ボルツ)「Park City」
残念ながら既に絶版で、代表作である「Park City」と「San Quentin Point」はナカナカ手を出しづらい古書価格になっている。定点観測写真の通り、カバーの傷みが大きいが中身は綺麗というものを安く入手できた。
2014年11月にボルツが亡くなりちょうど一年。三部作と呼ばれるもう一冊「Candlestick Point」は再版されているので、先の2作品も復刻という動きが出て来ないのかなぁと。
しかし、写真を見るのに支障が無くてもあまり外観がボロボロなものだと流石に躊躇する。カメラの世界では時々聞くのですが、状態の良いものが出たら買い替える写真集コレクターの方もいらっしゃるんだろうか…などなど。
Stephen Shore(スティーブン・ショア)「Uncommon Places」
こちらは何度も再販されている定番の大型写真集。
現行品は初版本に60点ほどの写真を追加・再構成し2004年に復刻されたものとのことで、タイトルに「The Complete Works」が付く。
以前写真を見ていただいていた写真家の方が、初版の「Uncommon Places」を持参して見せて下さったことがあった。サイズもやや小さく写真点数も少ないのだが、そちらの方がまとまっている印象で初版が欲しい気持ちがムクムクと。
が、しかし、ベースが同じでちょっとだけ違うモノを購入しだすと危険な沼が待っているのを知っているのでひたすら自重。
この写真集のダストカバーを外すと別の写真があるとの情報を見掛けて、こんな仕掛けをしているものもあるのかと写真集の面白さの一端を知った次第です。
金村修「I CAN TELL」
ブログ一番下のおススメ写真集には「SPIDER’S STRATEGY」を掲載していますが、ここでは「I CAN TELL」を。
この写真集は赤い背表紙で、赤というのは他に所有していないので私の本棚の中で非常に目立つ。表紙に縦に巻かれた幅広の帯に写真集のタイトルや作家名があるため、帯を外すと表紙は写真のみとなる。当記事の最初の画像でその一端が見えます。が、本棚への出し入れは帯を引っ掛けないようにちょっと注意。
構成は見開き裁ち落としから、金村さんの展示を模したグリッドレイアウトやテキストなど非常に多彩。扉のタイトル前にも写真、奥付の後にも写真、表紙の折り返しを開いて写真という凄いこだわりにようやく気付けるように(…なった?)。確か金村さんご自身が編集されたとどこかで読んだ記憶があります。
写真誌 視覚の現在 No.1
かつて新宿自主ギャラリーの一翼であったPUTから発行された6人の作家の作品集。1979年出版。掲載作家は浜昇、長船恒利、住友博、田口芳正、野田真吾、岡友幸の6氏。掲載作品は一人4点から10数点となっており、写真集ではなく写真誌なため装丁云々ではなく純粋に写真作品を見る為に。
実はこの作品集、以下のリンクからまだ新品を購入できます。買えること自体に驚いて、自分の分と知人の展示祝いに2冊注文した記憶が。35年以上前(!)のものですので、若干の焼け等はあるものと思った方が良いかと。
余談ですが、PUT・プリズム・CAMPといった当時の自主ギャラリーの概要は「インディペンデント・フォトグラファーズ・イン・ジャパン 1976-83」(東京書籍・1989年刊)が詳しい。少々読みづらいレイアウトですが作品も非常に多く掲載されています。
高梨豊「都の貌」
プロヴォークはさて置き、高梨豊氏の古い写真集は半分口が開いてしまう価格になっているが「都の貌」は何とかギリギリな価格帯。初版は外箱付きで、後にダストカバー仕様の新装版へと衣替えしている。
凝った造本の写真集も多く、丸い鏡を配し箱の中にもう一つ写真集がある「都市へ」(これは半分口が開く価格)や、近著の「IN’」は背表紙が無いものの2重の背高帯が巻かれており、章ごとにページのサイズが違うという仕様。
そしてこの「都の貌」もサイズと装丁が凄い。
写真集自体が縦横42.5×30.5cmと大きく、横位置の写真は見開きで掲載され35.5x46cmほどにもなる。印画紙で言えば小全紙相当を手元で見れるのだから凄い迫力。表紙・裏表紙は布貼り型押し、見返しや解説リーフの紙質なども非常に重厚だ。
発売時の定価は15000円。1万円を超える写真集は正直買い辛いが、このサイズとクオリティだったらと思えるカッコ良さ。
写真集についてのあれやこれや
最近気になって調べたり、若干老眼気味を押して凝視したりしている幾つかの事を。
装丁のカバー
最近になってようやく、カバー付きの写真集はカバーを外して中の表紙や装幀を見るようになった。その筋の方には当たり前なのでしょうけれど、先のスティーブン・ショアの「Uncommon Places」や高梨豊氏の「都の貌」など、カバーを外して「おお!」と思う写真集もあれば、逆に素っ気無さ過ぎてちょっと残念に思うことも。
最初からダストカバーの無い写真集も多く、個人的には布貼りの装丁で表紙に写真一枚とタイトル・作家名が型押しというのが一番好きですが、色やバランスなどナカナカこれだ!というものには当たらなかったり。好みというのはホント難しい。
そもそも、デザイン的な意味合いは大きいにしろダストカバーって必要?と思って調べたら、見本として書店に置かれた本が返本になった際、中身に問題が無いなら傷んだカバーだけを交換するという手法があるらしい。写真集ではほぼ無縁だろうが、タイアップ等でカバーを換えて販促するといった事例も。なるほどねぇ。
新品か中古か
写真集はなるべく新品を購入するようにしていますが、絶版のものや古書との価格差が大きい場合などは中古を購入することも。今のところざっとの比率は、新品7:中古3くらいだろうか。写真集自体の発行部数が多くないので、古書で探しても見つからずそれならと新品を買うケースも多い。
古書で買っても作家の方の1円の利益にもならないので新品を…と薄っすら思うこともありますが、自分の経済状況が一番優先なので何とも悩ましいのが偽らざるところ。中古でも買ってます。スミマセン。
発行部数はいかほどか
そもそも写真集とはどの程度の部数が刷られているのか。アート写真集や写真作品集と分類されるこれらは、一般の人が普通に購入するものとは言い難く、地方の書店では全く見かけることが無いのが実情だ。
写真集の出版・販売で有名な蒼穹舎の既刊案内ページでは、内容詳細のほか発行部数も記載されていて興味深い。
有名な写真家の方でも1000部を超えることは少なく、一般的には300~600部というケースが多いようだ。自身で販売するルートを持っているだとか、大手出版社からそれなりの広告費を使って出版となれば話は違うのだろうけど。
印刷や製本のクオリティ
判るようでいて意外と判り辛いのが写真集のクオリティ。
私はモノクロ専門なので、モノクロ印画紙へのプリントについては何とか判断ができる。が、印刷となると途端に難しい。
何故難しいと感じるかと言えば、印刷が眠いのか元のプリント自体がそういう感じなのか、どこを起点に見ていいかが判っていない。印刷への言及を目にして意識を過剰にして見るとなるほどと思うこともあるのだが、判らないなら判らないままでOKでは?とも思ったり。しかしそれはそれでちょっと悔しい。
恐らくいいモノを多く見ることで目が養われるのだろうから、今のところ経験値不足ということで精進します。
戯言の戯言
カメラ雑誌では昔から、カメラバッグの中身拝見とかあるじゃないですか。WEB屋界隈では、クリエイターのデスクトップをキャプチャした解説記事なんか面白かった。自分はこうだけど他人はどうしてるんだろう?という覗き見的な趣向はコンテンツとしても面白い。
正直、写真集はカメラや写真撮影に比べてかなりマイナーな存在。写真集について、見方や楽しみ方の言及がもっとあったらいいのになぁと思って、私なりに断片を綴ってみた次第。
カッコいい装丁の写真集を紹介したり、本(特に洋書)が湿度で波打たない工夫、本棚での並べ方の拘りとか。あと、重さで家の床が傾かないか等々。見てみたいコンテンツや知りたいことはまだ多くあり、写真集への興味はまだしばらく続きそう。
あ、写真自体も見てますよ。もちろんそちらがメインです。